- vol.30 2011年12月号
- 商業施設テナントの収益特性と賃料リスク
商業施設の収益性と店舗の安定運営
商業施設の運営状況を調査していると、施設規模やテナント構成はよく似ているが、施設の売上や賃料収入、テナントの出退店の動向に大きな差が生じているケースがある。特に施設の売上に関しては、立地エリアが都心商業地なのか郊外なのか、周辺に競合する商業施設が多いのか少ないのかによって、大きな格差が生じている。商業施設が立地しているエリアの立地特性が異なっていることが格差の理由である。
テナント企業は、同じような規模で同じようなテナント構成の商業施設であれば、より高い売上を得られるエリアに立地する商業施設に積極的に出店しようとする。また、そうした商業施設に出店していれば、景気の悪化などで多少売上が落ちたとしても、もともと高い水準の売上を確保しているので、安定的な店舗運営ができると考えられてきた。
しかし、近年の状況は、売上水準の低い商業施設よりもむしろ高い商業施設の方で、収支が苦しくなって賃料減額請求をしたり、閉店してしまったりするケースが多く見られるようになってきている。これはなぜだろうか?
収益性の高いエリアでテナントが苦戦する理由
テナントにとって出店したい人気エリアとは、収益性が高いエリアであるが、これは具体的には「店舗面積当りの売上」が大きい立地である。店舗面積当り売上(以下、坪当り売上)が大きいと、通常、テナントが得られる利益の額も大きくなる。一方、利益率を見ると、坪当り売上が大きいエリアほど利益率は低くなるという傾向が見られる。これは、坪当り売上が大きいエリアは、通常、賃料コスト水準も高いエリアだからであり、売上と賃料のバランスで見た「賃料負担率」(賃料÷売上)の水準が高めになることに起因している。(図表1)
従来、坪当り売上が大きければ利益額も総額として大きくなるため、賃料負担率が高水準になることについてはあまり問題視されず、許容されることが多かった。しかし、近年、多くのエリアで販売効率(坪当り売上)が低下している状況にあっては、高い賃料負担率が利益率を大きく圧迫し、この問題が表面化するケースが多くなっている。そのため、テナントからの賃料減額交渉や退店といった動きが、坪当り売上の大きい高度商業エリアでも目立つようになってきているのである。
出所)住信基礎研究所
テナントの利益率への影響要因
テナントの利益は、【利益額=売上-経費】で示されるが、経費は以下の2つに大別される。
(1)店舗運営経費(人件費・水道光熱費・商品材料仕入代等)
(2)店舗維持経費(賃料等)
テナントにとって、(1)は売上の増減に合わせて調整できる要素が多く、自力で削減可能なコストである。(2)は、施設側との契約で額が固定(※売歩賃料契約を除く)されており、さらにその店舗の周辺の不動産相場の影響を大きく受けているため、テナントの売上に応じて柔軟に調整できる性格のものではない。
賃料負担率は低いケースで3%~5%、高い場合は15%~20%を超えるケースもある。テナントの店舗運営にかかる種々の経費の中では、他の経費に比べてその金額単位が大きく固定的であることから、売上が減少すると、賃料負担率の高さが急速に問題となってくる。
テナントの収益特性と賃料の特性
このような状況が生じる要因の一つとして、テナントによる収益特性の違いがある。
立地エリアによる販売効率(坪当り売上)は、図表2のように、エリアによって10万円ずつの格差で分布していたとする。これに対して、テナントの販売効率は、どのエリア立地するかによって水準・傾向ともに大きく異なっている。これはテナントの業種業態によって特徴づけられる収益特性の違いである。図表2ではテナント(1)、(2)、(3)と3つの業態イメージを示している(※これらは単純化のため、実例よりも特徴を誇張して模式的に表現している)。
テナント販売効率は、エリア販売効率の水準に対して比例的に変化するケースは少なく、エリア販売効率が一定の水準を超えるとそれ以上は伸び悩むケースや、逆にエリア販売効率を上回る伸びを見せるなど、テナントごとに独特の傾向を有していることが多い。
出所)住信基礎研究所
これらは、テナントごとの販売品目の違いや客単価の格差、集客・販売手法の違いなどに起因しており、一般的に、高額買い回り商品を扱う業態では、エリア販売効率が高いエリアにおいてはテナント販売効率も高水準を示しており(図表2のテナント(1)のイメージ)、飲食業やサービス業など、時間消費型の要素が強い業態では、エリア販売効率が高くても、テナント販売効率は大きく伸びないケースが多い(図表2のテナント(3)のイメージ)。
しかし、賃料水準は、一般的にエリア販売効率の高さに比例する傾向で形成されることが多い。あるいは、そのエリア内に出店している主要テナント業種の平均的な販売効率水準と相関が高いことが多いため、賃料負担率の問題が発生するのである。
販売効率の把握は施設運営にも役立つ
ここまではテナント企業の立場から収益特性と賃料負担率の違いを見てきたが、商業施設を保有する企業の施設運営にも大いに役立てることができる。
まず、自社の保有する商業施設が所在するエリアの販売効率(坪当り売上)水準を、経済産業省の商業統計調査などを活用して把握するとよい。その上で、自社の施設に入居する様々なテナントの販売効率の傾向を把握し、施設が立地するエリア販売効率水準に対し、テナント販売効率がどの程度の余力を有しているかを判定してみると、自社の施設が持つ潜在的な賃料下落リスクをある程度読み取ることができる。
また、出店希望テナントの審査を行う際、当該施設での売上予測だけでなく、当該施設よりも販売効率の低いエリアと高いエリアのそれぞれに立地する既存店の売上実績情報の提出を求めることで、テナントの販売効率特性を知ることができる。
更に、自社施設に入居中のテナントの売上実績をもとに、施設ごとの平均テナント販売効率実績を算出し、それと各施設所在エリアの販売効率水準や賃料水準を比較することで、テナントの賃料負担力の評価や、テナントミックスの適正度の評価、賃料下落リスクの判定、リーシング戦略の策定、などに活用することが可能となる。
(作成:株式会社住信基礎研究所 客員研究員 大橋 卓哉)
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