コラム

vol.12 2010年6月号
賃貸マンション市場のセグメンテーション~特性の違いと見通し
◇株式会社 住信基礎研究所 投資調査部 上席主任研究員 伊東 尚憲

賃貸マンションマーケットにも厳しさが

これまで、賃貸マンションは他のプロパティタイプと比べ収益が安定しているとされてきた。しかし、最近の賃貸マンションマーケットでは、空室の増加、賃料値下げや敷金・礼金のカットなど、安定的とはいいがたい厳しい状況が見られるようになってきている。図表1は東京圏の2010年3月時点の平均募集賃料(坪単価)と平均礼金月数が2007年12月時点と比較してどれほど減少したのかを見たものである。全般的に下落傾向にあるが、中でも都心部は坪賃料で約11%、礼金月数で40%を超える大きな下落となった。賃貸マンションは安定的な収益を生む資産ではなくなったのだろうか。この疑問を解くカギは、エリアやタイプなどによる特性の違いにあると考えられる。

【図表1.平均賃料と平均礼金月数の変化率(2007年12月から2010年3月の変化率)】
【図表1】平均賃料と平均礼金月数の変化率(2007年12月から2010年3月の変化率)

出所)ネクスト「HOME'Sマーケットレポート」より住信基礎研究所作成
注)坪賃料と平均礼金月数は2007年12月の平均値と2010年3月の平均値の変化率をプロットした。

景気や過剰供給の影響度合いが厳しさの違いをもたらしている

エリアやタイプなどによる厳しさの違いをもたらしている主な要因として、(1)景気の影響と、(2)過剰供給の影響、の2点があげられる。
まず、景気の影響であるが、そもそも賃貸マンションの収益が安定しているとされてきた理由は、収益の源泉である賃料収入を支えるのは個人の所得であり、個人の所得は景気動向に敏感に反応するものではなく、比較的安定的に推移する、と考えられたことにあった。ここには賃貸マンションの賃料を負担するのは個人という前提があるが、実際は企業がさまざまな形で賃貸マンションの賃料負担にかかわっている。外資系企業が日本駐在の社員のために借り上げる賃貸マンション、大企業が社員に支給する家賃補助、中小企業の経営者が会社名義で借りる賃貸マンション、等々。こうした賃料負担は企業業績(景気動向)の影響を受けやすいものである。法人関与の割合の高いエリアやタイプでは、オフィスマーケット同様、入居者の動きの変化は大きく、収益の変動も大きくなると考えられる。一方、個人契約中心のエリアやタイプでは、所得変化を通じた影響は受けるものの、入居者の動きは比較的緩やかで、景気の影響が大きく表れるものではないと考えられる。こうした法人関与の割合の違いが、景気の影響度合いの違いとして表れ、エリアやタイプによる厳しさの違いをもたらしている。
次に過剰供給の影響であるが、ここ数年の地方都市賃貸マーケットの悪化に見られるように、賃貸マンションの供給過剰が競合激化を招き収益悪化に大きく影響している。供給が過剰か否かを判断する上では、供給量そのものよりも、そのエリアやタイプが大きいマーケットなのか、小さいマーケットなのかがポイントとなる。ボリュームの大きいマーケットであればある程度の過剰な供給も吸収できる可能性が高いが、小さいマーケット(ニッチなマーケット)の場合は、ひとたび供給が集中してしまうとマーケットが崩れやすい。マーケット規模の大小が、供給過剰による競合状態の違いにつながり、収益的な厳しさの違いとして表れている。

エリアやタイプによる賃貸マンションマーケットの違い

賃貸マンションマーケットを幾つかのエリアやタイプで対比しながら、賃貸収益を左右する主な要因であった、景気の影響とマーケット規模の違いを見る。

■都市中心部の賃貸マンション/ 都市周辺部の賃貸マンション
都市中心部ほど通勤等の利便性は高くなる一方で賃料水準も高い。都市中心部の高い賃料でも入居できるのは、一部の富裕層を除き、企業が賃料の全部あるいは一部を負担しているためと考えられる。このため、都市中心部の賃貸マンション需要は、企業業績つまり景気の影響を受けやすいと考えられる。都市周辺部では比較的賃料は低く、生活利便施設が充実しており、個人契約を中心に実需層が中心になると考えられる(家賃補助を受けているケースもあるが比率的には都心部よりも小さいと考えられる)。所得が安定している限りは景気動向には左右されにくい需要であり、都市周辺部は景気の影響が小さいと考えられる。
賃貸マーケットの規模は、都市周辺部は中心部を取り囲むように立地する既存住宅地のイメージでありボリュームも大きい。一方、都市中心部にも既存住宅街はあるが、やはりオフィスや商業施設等が中心であり、マーケット規模は小さいと考えられる。

■単身者向け賃貸マンション/ファミリー向け賃貸マンション
まず、賃貸マーケットの規模では、単身者の多くは賃貸住宅に居住すると考えられるため市場規模も大きくなる。ファミリーは分譲マンション等の持家を取得するケースも多いため賃貸マンションの市場規模としては小さくなる。
景気の影響に関しては、他の切り口ほど大きな違いはないと考えられる。あえて切り分けるなら、単身者の方が、マーケット規模が大きく賃貸住宅の選択肢が多いことや、人数が少ない分、移転の制約条件が少ないと考えられるため、住み替えのハードルは低い。住み替えのハードルが低い分、景気が良くなればより良い物件へ「借り上がり」、景気が悪くなれば適切な物件へ「借り下がる」動きが出やすい。このため、単身者向けは景気の影響が比較的大きく、ファミリー向けの影響は小さいと考えられる。

■一般世帯向け賃貸マンション/高額賃貸マンション
高額賃貸マンションは、海外から赴任してくる外国人、大企業の役員、中小企業の経営者等や、手厚い家賃補助(比較的高額の住宅手当の支給や借り上げて社宅扱いするケースなど)を受けているサラリーマンなどの需要に支えられている。一律に賃料で区分することは難しいが、東京であれば概ね20~30万円以上の家賃のイメージである。高額賃貸マンションの大半は法人契約と考えられ、企業業績によって需要が左右されるという点では、先に見た都市中心部の属性と似た特徴を持っている。一般世帯向け賃貸マンションの中にも家賃補助等で法人が関与しているケースもあるが、個人契約の比率が高く、また個人による賃料負担が大きいと考えられる。このため、景気の動向に左右されやすいのは高額賃貸マンションで、一般世帯向けは比較的影響が小さい。
賃貸マーケットの規模は、一般世帯向け賃貸マンションのマーケットが圧倒的に大きく、高額賃貸マンションマーケットは小さい。

■東京圏の賃貸マンション/地方都市の賃貸マンション
地方都市の場合は持家志向が強い点がポイントとなる。住宅購入のための費用も東京と比べると低く、ハイグレードな賃貸マンションに高い家賃を払うくらいなら住宅を購入した方が良いということになりやすい。このため、地方都市の賃貸マンション需要は、転勤まで、結婚まで、住宅を購入するまで、と短期的な仮の住まいとして位置づけられることが多い。賃貸マーケットの規模は、東京圏で大きく、地方都市では小さい。
景気の影響では、東京の需要者層は幅広く、法人契約比率も高いと考えられるため影響を受けやすく、地方都市では需要者層は限定されるため比較的景気の影響を受けにくいと考えられる。

セグメント別に見た特性と見通し

【図表2.賃貸収益を左右するポイントで整理した各マーケット】
【図表2】賃貸収益を左右するポイントで整理した各マーケット

出所)住信基礎研究所作成

図表2は、賃貸収益を左右する主な要因であった、景気の影響とマーケット規模のそれぞれの大小で4つのセグメントに区分した上で、前述の各タイプがどこに分類されるのかを整理したものである。

「賃貸マンションは他のプロパティタイプと比べ収益が安定している」という特徴を持つのは、賃貸マーケット規模が大きく、景気の影響が小さいセグメント3であり、都市周辺部の賃貸マンションや一般世帯向けの賃貸マンションの収益は比較的安定していると考えられる。このことは、図表1の分布を見ても「都下」をはじめ東京周辺部のエリアが「都心」と比べ右上に位置していることからも確認することができる。最も住宅らしい収益の安定性が期待されるセグメントといえる。
セグメント1に関しては景気の影響は受けるものの、前述のようにあえて分類すればといったところもあることや、マーケット規模が大きいため急な変化にはつながりにくいと考えられるため、セグメント3に近い存在かもしれない。
セグメント4は、参入者が増えるまでは安定的な「ニッチなマーケット」といえる。以前であれば、地方都市の賃貸マンションも比較的安定しているタイプであった。しかし、2006年頃から不動産ファンドブーム等による地方での開発活発化によって、地方都市中心部で単身者タイプが大量に供給された。この大量供給の影響が今も残り需給バランスは悪化したままであり、地方都市の賃貸マンションの収益を非常に不安定なものにしている。ニッチなマーケットに過剰な供給が行われたため厳しい状況におかれたのが地方都市の賃貸マンションである。地方都市での賃貸マンション需要が今後拡大することは期待しづらいため、再び安定的なマーケットに戻るためには、過去の過剰供給がこなれるまでの時間が必要であると同時に、新規供給が当面低水準に抑制される必要がある。ファミリー向け賃貸マンションはブーム期にも過剰な供給が行われなかったため(東京圏でも地方都市でも)、引き続き安定的であると考えられる。
セグメント2は足元最も厳しいマーケットで、収益は低迷している。景気の影響を受けやすい特徴が、マーケットの規模が小さいために増幅され、賃貸オフィスと類似した変動幅の大きい収益構造を持っている。図表3は、2004年上期から2009年下期までの半期ごとの平均成約賃料と空室率をプロットしたものである。高級賃貸住宅のバラツキは、23区の賃貸マンションと比べると大きくなっていることから、景気の良しあしによって左右されやすいタイプであることがわかる。また23区の賃貸マンションは空室率が変動しているものの賃料変化は小さい。一方、高級賃貸は空室率が高い時期には賃料が低く、空室率が低い時期には賃料が高くなる関係が見られる。こうした特性を踏まえると、今後、景気が回復し法人需要が戻ってくれば、賃貸収益の回復も早いものとなりそうである。

このように賃貸マンションといってもさまざまなタイプに分類され、それぞれ属性が異なっていることから収益変動にも違いが出てくることがわかった。不動産事業戦略を検討する上では、プロパティタイプの違いだけでなく、賃貸マンションのタイプの違いにも着目しセグメンテーションしていく必要がある。

【図表3.高級賃貸住宅と23区の賃貸マンションの市況比較】
図表3 高級賃貸住宅と23区の賃貸マンションの市況比較

出所)高級賃貸住宅の平均成約賃料と空室率はケン不動産投資顧問「KEN Data Press」、23区の賃貸マンションの平均成約賃料はアットホーム・住信基礎研究所「マンション賃料インデックス」、23区の賃貸マンションの空室率はJ-REIT公表資料より住信基礎研究所作成
注)高級賃貸住宅は賃料30万円以上または専有面積30坪以上のもの。主要9区は千代田、港、新宿、文京、品川、目黒、大田、世田谷、渋谷区。

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