- vol.11 2010年5月号
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商業施設における賃料評価とリスク
◇株式会社 住信基礎研究所 客員研究員 大橋 卓哉
商業施設の賃料
不動産投資家や関連プレイヤーの間では、投資対象の一つである商業施設について、「リスクが読めない」、「適正な賃料水準(相場)がわからない」などの不満を聞くことが多く、投資判断が難しいというイメージが強い。それら原因の一つとして、商業施設の賃貸借契約には、オフィスやレジデンス等と同様に面積に比して課せられる固定賃料に加え、テナントの売上に応じた歩合制の変動賃料が多く採用されていることが挙げられる。この結果、投資家(オーナー)が賃貸借期間中に受け取るキャッシュフローが当初見込みに比して大きく上下する場合がある。
本レポートでは、オフィスや住宅等とキャッシュフロー特性が大きく異なる商業施設を取り上げ、同タイプにおける賃料設定の考え方、およびテナント側から見た賃料関連指標である「賃料負担率」の動向や要因の確認を通じて、収益とリスクが表裏一体であることを踏まえた賃料設定や評価の必要性を示すものである。
賃料設定の基本的な考え方
一般的に商業施設を含む不動産の賃料は、オーナー側とテナント側の様々なビジネスモデル上の経済条件がベースとなり、両者の交渉結果として決定される。
オーナー側が当該施設に投資する際の経済上の目標は、投下資本を回収した上で、追加的に得られる継続的な収益を最大化することである(一般に新規投資の場合、事業者には利回り基準よりも投下資本回収的な考え方がなじみやすい)。よって賃料設定の際は、「過去」に投下した資金を一定期間内に「確実」に回収することが要件となる。具体的には投下資本、運営コスト、投下資本回収基準(通常は15年以内等)をもとに毎月均等に資金を回収する手段として、貸室面積に比例し時間的に変動しない、いわゆる「固定賃料」を設定したいと考える。
一方テナント側が当該施設に入居する際の経済上の目標は、当該施設での売上を原資に各種コストを控除した後の収益を最大化(ただしチェーンストアではポートフォリオ収益の最大化)することである。よって賃料設定の際は、「将来」の売上に基づき、持続的な店舗運営が可能な「相応」の負担が要件となる。具体的には立地や消費動向等を加味した売上予測から、仕入原価や人件費等の店舗運営に不可避の固定費を控除した金額を賃料と利益で配分するため、売上の大小によらず相応の利益を確保できる(≒売上に応じて賃料が変動する)、いわゆる「変動賃料」を設定したいと考える。
原則的には、需要過多で貸手市場の場合はオーナー側の意向に沿った固定賃料が、供給過多で借手市場の場合はテナント側の意向に沿った変動賃料がそれぞれ志向される。ただしテナントとオーナーとの力関係は個別に異なりまた力関係は連続的であることから、実際には固定賃料部分と変動賃料部分とを具備するハイブリッド型が多く、両賃料部分の比率も多様である。なお傾向として、投資資金が大きい場合はオーナー側が投資回収を確実にするため、また施設運営をテナントに依存する場合はテナント側のインセンティブのため、固定賃料が選択されやすく、逆の場合は変動賃料が選択されやすい。

出所)住信基礎研究所作成
テナントが注視する賃料負担率
ところで賃料設定が適切か否かを判断する指標の一つに、売上に対する賃料の比率である「賃料負担率」がある。固定賃料の際に用いる「賃料卖価」が投下資本を確実に回収しようとするオーナー側の発想に基づく指標とすれば、「賃料負担率」は売上に見合った賃料を負担しようとするテナント側の発想に基づく指標といえる。なおテナントにとっては持続的な店舗運営の可能性が高まるため、賃料負担率はできるだけ低いほうが望ましい。
賃料負担率の最近の動向をみると、2002年の8.9%から2008年の13.1%まで大きく上昇している。一般的に賃料負担率が上昇する要因としては、(1)不動産コスト要因(不動産の投資運営コストの上昇に伴いオーナーの必要賃料が上昇)、(2)テナント収益要因(粗利益率の改善などテナントの賃料負担力が上昇)、(3)テナント構成要因(テナントの入退去やテナントミックスの状況により売上が下落)、(4)消費販売要因(消費動向やテナントの販売戦略によって売上が下落)、等が挙げられる。特に2000年以降の賃料負担率の上昇は、不動産投資の過熱に伴う地価上昇(不動産コスト要因)および消費低迷や通販等へのシフト(消費販売要因)、の2点が指摘できる。

出所)住信基礎研究所作成

出所)(社)日本ショッピングセンター協会の公表資料に基づき、住信基礎研究所作成
注)調査対象は全国の14の政令指定都市(東京区部含む)のショッピングセンター
賃料負担率に基づく賃料設定のリスク
オーナーは自らの希望賃料を、テナント側から提示された売上が安定的と仮定して固定的な賃料として推計する。こうしたオーナー希望賃料から賃料負担率を推計すると、テナントの売上上昇に伴い賃料負担率は下がる。一方で、テナントは自らの負担可能賃料を、収益を安定的に確保するため変動的な賃料として推計する。こうしたテナント負担可能賃料から賃料負担率を推計すると、テナントの売上上昇に伴い賃料負担率は上がる(人件費等の固定費と営業利益が一定とすれば売上上昇分はすべて賃料に回せるため、高い賃料負担率による賃料負担も可能)。
実際の交渉では、オーナーはできる限り高い賃料負担率を希望するため、平常時の売上水準でみると、オーナー曲線のほうがテナント曲線よりも上側となる。特に2006~07年のようにテナントのスペース獲得競争が激しい時期では、オーナー意向に沿った高い賃料負担率で契約する可能性が高い。ただしテナントは損益分岐点が高くなり、売上が予測通りであっても収益は低く、賃料減額要請や撤退に至る可能性(リスク)が高まることになる。一方でそうしたリスクを回避するためにテナントの希望賃料で契約すると、投下資本の回収に時間を要することになる。
こうしたリスク回避と資本回収の2つのニーズを満たす方法が、投下資本が一定期間で回収できるよう最低保証額を設定しつつ、売上が予想通りあるいは上振れした場合に追加的な賃料をとるハイブリッド型の賃料形態であり、多くの商業施設で採用される理由と言えるであろう。なおこうした契約形態での賃料負担率の水準は、上述のようにテナントの競争力(販売力)や不動産市況によっても変化するため、オーナーはテナントの急な方針転換に戸惑わないよう、常に賃料の原資となる売上の動向と賃料負担との関係を注視し、リスク発生の可能性をモニタリングすることが望まれる。
以上のように、長期投資を前提にした商業施設の賃料設定にあたっては、オーナーおよびテナントの意向を明確にした上で、リスクを最小化する契約を志向することが望まれる。特にオーナー側にとっては、賃料形態や賃料水準での合意にとどまらず、それらが「テナントにとって持続可能な条件であるか」を吟味することが、安定的な収益を獲得するために必要不可欠な視点といえる。

出所)住信基礎研究所作成
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