コラム

vol.10 2010年4月号
CREマネジメントにおけるJ-REIT市場からの示唆
◇株式会社 住信基礎研究所 投資調査部長 北村 邦夫

CRE戦略の検討にJ-REIT市場情報を活用

J-REIT市場は、世界的な金融危機による大きなショックの後、スポンサーの交替や合併による再編が進行し、徐々に立ち直りつつある。J-REIT市場は、投資家を始めとする関係プレイヤーだけでなく、不動産に関わりを持つプレイヤーに対しても示唆に富む情報を豊富に提供してくれる。今回は、企業不動産のマネジメントに関わる方にとって有益なJ-REIT市場ウォッチの観点を2つ紹介する。

J-REIT市場から不動産キャップレートの動向を把握

J-REITの価格情報と決算資料のデータを用いて、年間NOI(Net Operating Income)÷(時価総額+ネット有利子負債+預かり敷金・保証金)を計算すると、資本市場が示すJ-REITの運用不動産に対する期待利回りを把握することができる。ここで、(時価総額+ネット有利子負債+預かり敷金・保証金)は、株価を通じて不動産資産を時価評価したものであり、その銘柄の買収価値でもある。この指標はインプライド・キャップレートと呼ばれ、不動産のキャップレート変動についての速報性と先行性に優れた指標である。

2006年からのインプライド・キャップレートの推移をみると(図表1の上グラフ)、2007年上期にキャップレートが底(価格のピーク)となり、その後上昇を続けて2009年上期に天井を打ち、その後、年末にかけて足踏みをしつつも局面としては回復に転じていることが読み取れる。但し、この水準は必ずしも不動産取引のキャップレート水準を示しているものではないことに留意が必要である。J-REITが保有する不動産はポートフォリオとしてリスク分散効果が期待できること、上場商品であるため投資家は流動性を期待できること、不動産のプロの運用であること等により、単体の不動産取引と比べて要求されるリスクプレミアムが圧縮され、市場が平常時であれば不動産NOI利回り>インプライド・キャップレートの関係にあると考えられるからである。

あわせてもう1つ、市場環境についての重要な情報を得ることができる。J-REITの運用不動産の実際のNOI利回りとインプライド・キャップレートとの乖離の推移(図表1の下グラフ)をみることで、不動産市場がオーバーシュートあるいはアンダーシュートしているかを推察できる。インプライド・キャップレートと不動産NOI利回りとの乖離の長期均衡水準はまだ歴史が浅いために明らかではないが、2007年上期には乖離幅がそれまでの2倍まで拡大したため、市場が過熱気味であると当時判断していた。また、今般の価格下落局面では、この乖離が大幅なマイナスとなり、不動産の現実の実力を相当下回って資本市場が評価していて慎重すぎるセンチメントにあると判断できる。

このように、可視化しにくい不動産価格動向の一端がJ-REIT市場をウォッチすることで把握しやすくなり、保有不動産の取得や売却のタイミングを検討する際の一助となろう。

【図表1.インプライド・キャップレートの推移と不動産NOI利回りとの乖離】
【図表1.インプライド・キャップレートの推移と不動産NOI利回りとの乖離】

注)不動産NOI利回り=年間NOI÷不動産取得価格合計
出所)住信基礎研究所

J-REIT市場から不動産保有に対する株主資本コストを把握

J-REITは稼動している不動産を保有して賃貸事業利益を投資家に分配する非常にシンプルな事業構造のヴィークルである。単純化して言えば、不動産保有に特化した事業モデルに対する資本市場の評価(株主資本コスト)の水準をみることができる。株主資本コストは当該事業のリスクに対する評価を反映したものである。CRE戦略においてコア事業と不動産事業のリスクを分離・区分すべきかの検討にあたり、不動産事業に特化したJ-REITの株主資本コストの水準を把握し、自らの企業のそれと比較することが有益である。

J-REIT全銘柄を対象に、2001年の初上場時からリーマンショック前の2007年末までの期間のTOPIXに対するCAPMのβは0.28と推計される。業種による差異はあるものの、これを下回るβの業種は少なく、株主資本コストに関してJ-REITは低いといえる。さらに負債コストも考慮してJ-REIT全体のWACCを試算(利用データ、計測期間や計測頻度等の推計方法の違いによりWACCは一様ではないが、ここでは次の前提条件で試算。TOPIXの同期間の実績超過収益率は7.8%、J-REITの負債コストは2%、D/Eレシオは2/3)すると、約3%の水準となる。

J-REIT市場情報を基にした資本コスト面からのアプローチも、不動産保有に関する方針検討の1つの材料となろう。

CRE戦略実践とJ-REIT

これまでにJ-REITが取得してきた物件をみると、企業が保有していた不動産をJ-REITが取得して長期所有主体となり、企業はその不動産を賃借して事業を継続している事例が少なからずある。不動産のタイプは多岐にわたり、本社ビル、商業施設、物流施設、寮・社宅、あるいは航空機の格納庫も対象になっている。場合によっては、それらの施設の土地のみを取得するケースもある。

また、店舗展開や物流ネットワーク再編のために、施設の開発・建設時に専門能力活用と資金リスクの低減を狙ってBuild to Suit方式で不動産私募ファンドを活用する例もある。このように、施設の建設・保有の各フェーズで不動産私募ファンドやJ-REITと上手くコラボレーションすることも、CRE戦略の実践の間口を広げると考えられる。

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