コラム

vol.09 2010年3月号
羽田空港の再国際化に伴う物流施設の方向性~貨物内容・施設立地・所有形態~
◇株式会社 住信基礎研究所 投資調査部 研究員 吉田 資

羽田空港の再国際化に伴う国際航空貨物輸送の変化

首都圏における航空貨物輸送の起点は、1978年の成田空港の開港以来、海外向けは成田空港、国内向けは羽田空港、というすみ分けがなされてきた。こうした中、羽田空港では、沖合いの新設滑走路の建設(D滑走路整備事業)および用地内での国際線ターミナルの整備(国際線地区整備等事業)が2010年度の完成を目処に進められており、今後は24時間空港の利点を活かした国際航空貨物輸送の本格化が期待されている。国土交通省の発表によると、昼間時間帯(6~23時)には旅客便により年間約25万トン、夜間時間帯(23時~6時)にも貨物専用機により年間約25万トン、合計で約50万トンの新たな航空貨物輸送が見込まれている。特に羽田空港は都市機能が集中する東京都区部にあり、空港から顧客到着までのリードタイムを短縮できるため、国際航空貨物輸送に係る事業者にとってメリットは大きく、新たな物流施設ニーズの発生が予想される。

本レポートでは、こうした羽田空港の再国際化に伴う物流施設の変化や方向性を、【1】輸送目的からみた貨物内容、【2】地域特性からみた施設立 地、【3】事業環境からみた所有形態、の3つの観点から明らかにする。

【1】輸送目的からみた貨物内容

航空貨物輸送の大きな特徴は輸送スピードと運賃の高さにあり、航空貨物の内容は、迅速な輸送と単位体積・重量あたりの商品価値が高い製品が中心となる。特に迅速な輸送が必要な場面として、(1)顧客への緊急対応、(2)環境変化の最小化、(3)販売上の早期供給、等が挙げられる。

(1)顧客への緊急対応とは、製品の故障、商品の不備、在庫不足等への対応であり、近年では、自動車等の補修部品や液晶パネルの原材料であるガラス等が、主要な貨物として挙げられる。

(2)環境変化の最小化とは、振動や衝撃の回避、鮮度の維持等であり、半導体等の精密機器や加工品であるデジカメ・PC等のデジタル家電、および医薬品、生鮮食料品等が主な対象となる。

(3)販売上の早期供給とは、販売上の機会損失の回避や新製品投入時のシェア確保を目的とするもので、新発売のゲーム機やソフト、ファッション衣料品、携帯電話等が挙げられる。

【図表.航空輸送における主な貨物内容】
【図表.航空輸送における主な貨物内容】

出所)住信基礎研究所作成

【2】地域特性から見た施設立地

上述の通り航空貨物には迅速な輸送が求められることから、航空輸送の前後においても同様の迅速さや輸送時間のロスの排除が必要とされる。このため国際航空貨物を取り扱う企業における物流施設の立地は、成田空港周辺に限られている現状から、主にA成田空港周辺、B成田空港と羽田空港の中間地点(例:千葉県浦安市・市川市湾岸部等)、C羽田空港周辺、の3地域に、その立地選択の幅が広がることが予想される。以下ではそうした立地の方向性を探るため、企業や物流事業者における物流施設の立地選択上の評価項目である、(1)生産地・消費地への近接性、(2)労働力の確保、(3)不動産コスト、等の観点から、3地域の物流施設立地としての優劣を比較した。

(1)生産地・消費地への近接性:工場集積エリアや人口密集エリアに近い物流施設は、輸送のリードタイムを短縮できる。特に精密機器等の輸送においては、振動や衝撃が伴うトラック輸送の時間を最小化できるメリットは大きい。こうした点からは、羽田空港周辺や中間地点は、国内最大の消費地である東京都区部等へのアクセスに優れているが、成田空港周辺はやや劣っている。

(2)労働力の確保:近年は、保管や入庫に加え、名札付け・検診などの流通加工作業も物流施設内で行う企業が増えており、パート労働者を確保する目的から、近隣に住宅地があることや鉄道・バス便等の通勤手段が確保されているか等が、立地選択においてクローズアップされつつある。羽田空港周辺や中間地点はこうした要件を満たしているものの、成田空港周辺は人口密度や通勤利便性の点で、相対的に劣っている。

(3)不動産コスト:厳しい経営環境の中、企業におけるコスト削減の圧力は強まっており、不動産コストの圧縮も大きな課題となっている。物流施設の平均募集賃料は、成田空港周辺3,550円/坪、中間地点4,550円/坪、羽田空港周辺7,030円/坪と高くなり、同じく公示地価も、成田空港周辺82,000円/m²、中間地点374,000円/m²、羽田空港周辺603,000円/m²と高くなる。このように保有・賃借等によらず、羽田空港周辺が最も不動産コストが高いといえる。

【図表.物流施設の立地選択評価】
【図表.物流施設の立地選択評価】

出所)住信基礎研究所作成

【3】事業環境からみた所有形態

企業活動を取り巻く事業環境は常に変化しており、企業の物流機能にも、そうした経済環境に応じた柔軟性や高度化が求められている。特に近年においては、(1)事業変化への対応力、(2)資産構成の柔軟性、(3)施設の多機能化、がより強く求められている。

(1)事業変化への対応力:物流施設における建物の耐用年数は通常30~40年程度と言われるが、これに対し消費者のニーズおよび成長業種・企業や同一企業における事業戦略等は、目まぐるしく変化してきている。このため同施設が長期にわたってフル稼働されることは難しく、よって自社で物流施設を開発・保有した場合、その投資回収も容易ではない。これに対し市場に供給されている賃貸物流施設を使用する場合、必要な時期に必要な面積だけ利用することができるため、フル稼動期間のランニングコストでは保有に比べやや割高であっても、長期の稼働状況やイニシャルコストをも考慮すると、費用対効果は賃貸物流施設の方が相対的に高いといえる。

(2)資産構成の柔軟性:仮にフル稼働が長期間継続すると予想されるならば、物流施設を開発・保有することも有力な選択肢となる。ただし専業の賃貸事業者等を除くと、一般的には物流施設の資産効率は本業に比べ低く、また物流施設の立地は各企業の事業戦略により独自性が強く表れるため物件売却(=資産見直し)も容易ではない。よって物流施設の保有は、資産活用という観点からは必ずしも望ましいとは言えない。

(3)施設の多機能化:前述の通り、労働力の確保が物流施設の立地要件になりつつあり、同様の目的によって、最近は食堂、売店、託児所などが併設される賃貸物流施設が増加しつつある。労働力確保が目的とはいえ、施設運営に不慣れな一般事業法人にとってこうした機能を自社で管理運営することは、法的な問題の解決も含め極めてハードルが高く、コスト増加要因となる。

【4】羽田空港再国際化に伴う物流施設イメージ

羽田空港の再国際化は、グローバル経済の要となる航空貨物輸送上の変化が、国内最大の経済圏で生じるものであって、国内の物流施設の動向に大きな影響を及ぼすことは必至である。本レポートではそうした影響の方向性を探るため、輸送目的、地域特性、事業環境の整理を行った。

航空貨物輸送の目的に即せば、顧客への緊急対応、環境変化の最小化、販売上の早期供給等が必要な、貨物および荷主企業による物流施設・機能の再配置ニーズが高まると思われる。またその立地としては、生産地・消費地への近接性、労働力の確保、不動産コスト等の観点から、羽田空港周辺がより魅力的と考えられる。ただし羽田空港周辺での不動産コストの高さに加え、企業各社には昨今の事業環境から、事業変化への対応力、資産構成の柔軟性、施設の多機能化等が求められており、これに対応するためにも、企業自ら物流施設を開発・保有するのではなく、既存の賃貸物流施設をテナントとして利用するのが現実的な選択であると考えられる。

多くの企業にとって、物流施設やその機能は、サプライチェーンの中で何らかの係わりを有するものであり、程度の違いはあるにしろ羽田空港再国際化の影響を受け、事業拠点戦略の見直しが求められる契機となろう。さらに物流施設を既に保有する企業および物流施設の候補地(土地・遊休地等)を保有する企業にとっても、その活用の方向性を含め、改めてCRE(企業不動産)戦略を見直すきっかけになると思われる。

1)成田空港での取扱貨物量は、国際貨物が188万t、国内貨物が0.4万tであった。一方で羽田空港では、国際貨物が1万t、国内貨物が76万tであった。(国土交通省「空港管理状況」より2008年度のデータ)
2)CBRE「インダストリアルマーケットレポート」より倉庫・配送センターの平均募集賃料(2009年下半期)。
3)平成21年度「地価公示」より、物流施設の建設が可能な工業系・商業系用途地域の平均価格。(1)成田空港周辺は千葉県成田市の平均、(2)中間地点は千葉県市川市と船橋市の平均、(3)羽田空港周辺は東京都大田区の平均値。

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