コラム

vol.07 2010年1月号
景気連動性から見た不動産の用途別特性
◇株式会社 住信基礎研究所 私募投資顧問部 副主任研究員 室 剛朗

事業戦略における不動産保有の意味

不動産保有企業が、事業全体でリスク軽減および分散を図るためには、その資産価値が本業の業績と連動しないような不動産を保有する(または連動する不動産を保有しない)ことが望ましい。すなわち景気連動性が強く不動産以外の設備投資コストが大きい業種・企業等では、不動産キャッシュフローや資産価値の景気連動性が小さい住宅(社宅・賃貸住宅等)等を保有し、景気連動性が大きいオフィスは売却する、といった戦略が想定される。

ここではこうしたCRE戦略立案等において不可欠な、不動産の用途別特性に対する知見を、景気連動性の観点から整理した。

用途による賃貸収益の違い

当社において、空室率や募集賃料等の公表されている賃貸市況データをもとに、用途別の不動産収益構造を踏まえ、新規成約賃料および稼働率等をベースに、テナント入れ替え、継続賃料およびコスト等を考慮したうえで、不動産キャッシュフロー(ここでは不動産NOI(Net Operating Income)を採用)の変化を推計した(図表1)。2002年10月以降では、2003年後半に始まるCF上昇反転と、2007年後半に始まるCF下落反転の、2つの反転が確認できる。ただし変化の幅やそのタイミングは用途により異なっており、反転の早い用途から並べると、CF上昇期は、都心商業>オフィス>物流>ビジネスホテル>住宅、CF下落期は、ビジネスホテル>物流>オフィス>住宅>都心商業、といった傾向が見られる。こうした傾向は、ファンダメンタルズ等の長期トレンド、各用途の需給バランス、賃貸借の取引慣行や契約上の特性(契約期間等)、そして上昇・下落局面の背景によっても影響されるため、常に同一とは言えないが、少なくとも用途によって1~2年程度、反転のタイミングがずれることは確かなようである。

【図表1 不動産NOI指数の推移】
不動産NOI指数の推移

出所)住信基礎研究所作成

景気回復局面における用途別の需要回復シナリオ

以下では、こうした賃貸収益動向に表れる用途別の反転タイミングの違いを、過去の実績を踏まえつつ需要の発生メカニズムの観点から整理し、今後本格化するであろう景気回復局面で想定される需要回復のシナリオを示した(図表2、ただし用途別以外の要因による影響は考慮していない)。

景気回復局面においては通常、個人部門に先駆けて企業部門が回復する。企業の設備投資余力が高まると、まずは企業規模・設備投資規模が比較的小さい第三次産業を中心に、オフィススペースの拡充が図られる。一方企業規模・設備投資規模が比較的大きい製造業等の第二次産業においては、需要拡大に対し当初は既存の工場・物流施設等で対応し、需要が一定以上に高まると新たな工場・物流施設等へ投資され、最後に管理部門であるオフィススペースを拡大する。また支店経済である地方都市については、景気回復の初期段階では、本社が集積する東京等からの出張増加に伴いビジネスホテルの利用が増え、その後一定の需要回復に伴いオフィススペースを拡大する。なお市場全体の動きは都市別の産業構成や本社支社構成等に左右され、例えば第三次産業や本社比率が高い東京では、オフィス→ビジネスホテル→物流の順で、また第二次産業や支店比率が高い都市では、物流→ビジネスホテル→オフィスの順で、それぞれ市況が回復すると考えられる。

一方個人部門の景況感を示す雇用拡大や所得上昇は、企業部門の業績回復が前提となるため、その回復テンポは遅く緩やかである。ただし企業はその業績回復に伴いまずは雇用拡大を優先するため、住宅需要は比較的早く顕在化しやすい(ただし賃料改定は遅い)。次いで所得が上昇し消費が拡大する中で最寄品等の需要が先行し、それらを販売する地域密着型の商業施設利用が高まる。さらに所得上昇の継続により、消費の対象が買い回り品やレジャー等にまで広がり、それらを供給する広域型の商業施設やレジャー施設あるいはシティホテル等の利用が拡大する。

【図表2 景気回復局面における不動産用途別需要回復プロセス】
景気回復局面における不動産用途別需要回復プロセス

出所)住信基礎研究所作成

以上のように不動産の用途別需要は、大きくは国内経済の動向に依存しつつも、その発生構造の違いによって、変動可能性や時間的関係も異なるものと考えられる。今後CRE戦略を検討するに当たっては、立地、規模、築年等の属性の違いのみならず、こうした用途別特性の違いをも考慮した判断が求められるといえる。

この書類を含め、作成者である住信基礎研究所(以下、当社という)が提供する資料類は、情報の提供を唯一の目的としたものであり、不動産および金融商品を含む商品、サービスまたは権利の販売その他の取引の申込み、勧誘、あっ旋、媒介等を目的としたものではありません。銘柄等の選択、投資判断の最終決定、またはこの書類のご利用に際しては、ご自身でご判断くださいますようお願いいたします。この書類を含め、当社が提供する資料類は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成していますが、当社はその正確性および完全性に関して責任を負うものではありません。本資料は作成時点または調査時点において入手可能な情報等に基づいて作成されたものであり、ここに示したすべての内容は、作成日における判断を示したものです。また、今後の見通し、予測、推計等は将来を保証するものではありません。本資料の内容は、予告なく変更される場合があります。当社は、本資料の論旨と一致しない他の資料を公表している、あるいは今後公表する場合があります。この資料の一切の権利は当社に帰属しております。当社の事前の了承なく、その目的や方法の如何を問わず、本資料の全部または一部を複製・転載・改変等してご使用されないようお願いいたします。

ConsultingM 動画配信中
Marunouchi Visionで放映中の「コンサルティングM」紹介CMをご覧いただけます。

お問い合わせ・ご相談
  • 電話でのお問い合わせ
    03-3510-8038
    広報推進室
    [受付時間]月~金(9:30~18:00)
  • メールでのお問い合わせ
    お問い合わせ・相談