- vol.05 2009年11月号
- 温暖化ガス削減目標達成の鍵を握る業務部門の対応
◇株式会社 住信基礎研究所 投資調査部 副主任研究員 菊地 暁
世界の温暖化ガス削減目標達成に向けて、日本には高いハードルが課せられている
地球温暖化対策について、日本は1997年の京都議定書の採択を受けて地球温暖化対策推進大綱を決定し、その後2002年6月に京都議定書を締結しました。この京都議定書では2008~2012年時に基準年(1990年)比で6%の温暖化ガス削減の目標が掲げられています。さらに、鳩山首相は国連気候変動サミットにおいて、温暖化ガス排出量を1990年比で25%削減するとの中期目標を国際表明しました。日本の産業界におけるエネルギー効率の追求レベルは、世界トップクラスであるにもかかわらず更なる削減努力が求められており、世界の温暖化ガス削減目標の達成に向けて、日本には高いハードルが課せられていると言えます。
しかし、2012年までの削減目標に対する途中経過を見ると、2007年時点での温暖化ガス排出量は削減どころか増加しており、基準年比で約9%も上回っています。部門別の内訳をみると、工場などの産業部門からの排出量は471百万トン(1990年度比2.3%減少)と削減が進む一方で、自動車などの運輸部門からの排出量は249百万トン(同14.6%増加)、オフィスビルなどの業務部門からの排出量は236百万トン(同43.8%増加)、家庭部門からの排出量は180百万トン(同41.2%増加)などとなっています。従って、引き続き産業部門、運輸部門の削減努力はもちろんのこと、業務部門、家庭部門での排出量削減が目標達成のために必須の課題となっています。
動き出した業務部門の温暖化ガス排出量削減への対応
大手不動産会社を中心に温暖化ガス削減に向けた対応が進む一方で、不動産業全体の動きとしては、まだ発展途上の状態にあります。特に、東京都のようにオフィスビルが集積する地域では、全部門における業務部門の排出量の比率が年々拡大しています(図表1)

出所)東京都HP「都内の温室効果ガス排出量等(速報値)」をもとに住信基礎研究所作成
現在、業務部門における温暖化ガス排出量の削減が喫緊の課題となっている東京都では、改正「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(以下、「条例」という)」によりビル事業者に対して温暖化ガス削減を厳しく求めていくこととし、これを2010年4月に施行することを決定しました。
この温暖化ガスの削減義務を負うのは、原則的に排出量が一定量以上(年間のガス・電気の使用エネルギーが原油の数量に換算して1,500kl以上 )のビル(以下、「指定事業所」という)のオーナーとなっています。削減計画期間は5年間で、2010~2014年度が第一計画期間となっており、この計画期間終了後1年の整理期間(2015年度)ののち、2016年3月末が削減目標の履行期限となります。第一計画期間における削減義務率は、一般的なオフィスビルで「8%」、地域冷暖房等から供給されるエネルギーの割合が事業所の全エネルギー使用量の20%以上の事業所では「6%」であり、この削減義務に対して削減量が不足した場合には、不足量の最大1.3倍の削減の措置命令が行われます。
指定事業所のビルオーナーは、高効率エネルギー消費設備・機器への更新や、運用対策の推進などの努力により、いわゆる環境配慮型ビルへの転換等を進め、温暖化ガス排出量の削減義務を果たす必要があります 。さらに、テナント企業と協力して温暖化対策を推進するための体制を整備する義務(協力推進体制の整備)が課せられています。
一方でテナント企業の義務はどうでしょうか。条例では、ビルオーナーを義務対象の基本としつつ、その上で全てのテナント企業に「オーナーの削減対策に協力する義務」を課し、さらに「特定テナント等事業者 」には「テナント事業者独自の対策の計画書を作成・提出し、その計画に基づき対策を推進する義務」が生じると規定されています。
このように、東京都の条例では、ビルオーナーに対して削減義務を課す一方で、テナント企業との協力体制を確立して温暖化ガス削減を進める枠組を策定しています。
- 東京都によれば、一般的なビルスペックで「延べ床面積約20,000m²程度」のビル
- 総量削減義務の履行手段としては、上記のほか、排出量取引を行って履行することも可能である。
- 毎年度5月末時点において、「5,000m2以上の床面積を使用して事業活動を行っている」もしくは「延べ床面積にかかわらず、前年6月1日からの1年間の電気の使用量が600万kWh以上となる事業活動を行っている」テナントをいう。
テナント企業にとっての環境配慮型ビルの重要度と経済的負担
東京都の条例では、削減義務を負うのはビルオーナーとなっていますが、テナント企業の経済的負担についての協力なしに、ビルオーナーのみが負担するのは重荷と言えます。しかし、そもそもテナント企業は環境配慮型ビルをどのように考えているのでしょうか。
2009年5月に行った「環境配慮型ビルに関する企業の意識調査」によれば、「賃貸オフィスビルに入居する場合の付加価値項目の重要度」(重要度DI)の中でも、「環境配慮」の重要度DIは61.5で、「セキュリティ」の85.1に次ぐ高水準でした(図表2)。テナント企業は、オフィスビルのさまざま付加価値項目の中でも、「環境配慮」を重要な項目と認識しています。

出所)住信基礎研究所「環境配慮型ビルに関する企業の意識調査」
調査対象:東証大証上場または資本金500億円以上の企業を対象とし、148社から回答を得た。
注)重要度DI=(「重要」と回答した企業比率×1+「やや重要」と回答した企業比率×0.5)-(「あまり重要ではない」と回答した企業比率×0.5+「重要ではない」と回答した企業比率×1)
また、環境配慮型ビルへ入居する場合の経済的な負担の意思についても、約半数のテナントがランニングコスト削減額相当の賃料上昇を許容するとしています。
現在日本が掲げている温暖化ガス削減目標を達成するには、業務部門についても、より一層の削減が必須となっています。そのためには、ビルオーナーの削減義務のみならず、テナント企業の協力が必要となりますが、前述の調査結果では、多くの企業が「環境配慮」をビルの付加価値項目として重要と捉えており、環境配慮型ビルへ入居する場合の経済的負担についても一定の理解を示しています。
日本に課せられた削減目標のハードルは高く、目標達成までの道のりは決して平坦ではありません。しかし、徐々にではありますが、民間部門でも温暖化ガス削減への対応が進みつつあります。今後、東京都の条例を契機とした、ビルオーナーとテナント企業との環境を意識した協力体制の広がりが、業務部門における温暖化ガス削減に大きく貢献するものと期待され、また、企業不動産(CRE)戦略においても、その重要度が増すことが予想されます。
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