- vol.04 2009年10月号
- 不動産市場の分析アプローチ再考~不動産サイクル分析を通して~
◇株式会社 住信基礎研究所 投資調査部 上席主任研究員 馬場 高志
求められる不動産市場の羅針盤
不動産関連プレイヤーにおいては、2008年初頭から顕在化した不動産市況の悪化を受け、投融資方針見直しを目的に、不動産市場の見通しに対する調査ニーズが高まっている。その主な内容は、投資タイミングの検討を目的とした1~5年程度の中期的な見通し、およびビジネスモデルの構築あるいは見直しを目的とした10~20年程度の長期的な見通し、の大きく2つに分けられる。中期的な見通しは、本コラム7月号でもそのエッセンスを紹介しており、投資環境・賃貸市場・取引市場等の側面から不動産市場の将来見通しを明らかにしている。一方長期的な見通しは、不動産市場の変動から周期の異なる複数の変動サイクルを抽出し、その変動要因を踏まえ、長期的な不動産市場の方向性を探るものである。
筆者はこうした長期見通しに関する取り組みを総称し「不動産サイクル分析」と呼んでいる。ここでは市街地価格指数の変動率(6大都市商業地、年間移動平均値前期比、財団法人日本不動産研究所作成)に対する同分析結果を利用し、不動産市場の本質的な変動要因を抽出整理することを通して、不動産保有あるいは不動産事業の方向性を見誤らないための羅針盤である「分析アプローチ」のあり方を再確認したい。
不動産サイクルとは
ここで不動産サイクルとは、不動産市場に関する指標がほぼ一定した時間的周期により、山(価格上昇)および谷(価格下落)を繰り返す事象とし、また不動産サイクル分析とは、複数の不動産サイクルを統計手法(ホドリック・プレスコットフィルター)により抽出するとともに、その要因を定性的・定量的に明らかにすることとする。
不動産サイクル分析を、市街地価格指数増減率の過去50年強にわたるデータに適用すると、サイクルの周期すなわち山(谷)から次の山(谷)までの期間に応じて、超長期、長期、中期、短期の、大きく4つのサイクル(トレンド含む)が抽出された。言い換えると、不動産市場には周期の異なる主要な4つの変動要因が存在すると考えられる。
市街地価格指数変動率(6大都市、商業地)とサイクル分析結果

出所)財団法人日本不動産研究所データをもとに住信基礎研究所推計
注)市街地価格指数変動率=超長期サイクル+長期サイクル+中期サイクル+短期サイクル
不動産サイクルとその特性
超長期サイクルは概ね28~36年の周期で非常に緩やかなサイクルを描きながら、一貫して下落基調(トレンド)を示している。これは国家や地域の経済力に連動する不動産の「総需要」の変化に起因すると考えられる。またわが国では約半世紀にわたり、一貫して人口や労働力など不動産の利用者数の伸びが鈍化してきたことと呼応する。特にバブル崩壊後はマイナスに転じているが、これは価格高騰の反動というよりも、総需要が大きな転換点を迎えたと見るべきであろう。その後回復の兆しも見られるがその動きは弱く、基調としては人口減少と都心回帰を背景に、横ばいあるいは小幅な下落での推移が予想される。
長期サイクルは、概ね13~19年の周期で3~4回観察される。これは総需要をベースとしつつ、国家や地域の成長過程に伴う、不動産の「需要内容」の変化に起因すると考えられる。1960年前後の山は「工業」の需要増加で、工業国としての日本の存立基盤が築かれた。1970年代前半の山は「住宅」の需要増加で、大規模団地等の造成により労働者の居住環境改善が図られた。1980年代後半の山は「業務・商業」の需要増加で、大規模オフィスビルの開発により快適な労働空間や、大規模複合施設の開発により財・サービス等の消費空間等が提供された。そして2000年代以降の緩やかな山は「投資」の需要増加で、不動産証券化の制度・技術の整備を背景に、貯蓄および資産運用の機会として、株・債券に次ぐ新しい投資対象である国内不動産へ資金流入が進んだ。
中期サイクルは、過去50年強の間に概ね6~10年の周期で7回程度観察される。これは不動産需要の変化に対し、計画、解体、造成、建築など、実際の不動産供給までに一定期間必要という「供給調整」の特性に起因すると考えられる。すなわち需要が供給を上回ると供給不足により価格は上昇し、供給が満たされてくると以前の水準まで下がる。大量供給や需要減少等により供給過多になると、価格は以前の水準をも下回る。バブル崩壊後の価格下落期をみると、都心回帰ニーズに伴い分譲マンション需要が高まった。その結果、価格(中期サイクル)は下落幅縮小および上昇に転じ、その後大量供給が行われた。価格上昇は緩やかになり、さらに景気悪化が長引き金融機関の破綻が相次ぐ中で需要が減退し、需給バランスも逆転し価格は再び下落基調に転じた。経済回復が本格化すると価格の下落幅は縮小し、収益性の高い賃貸マンションや賃貸オフィスとの用地取得競争により需給バランスがタイト化すると、価格上昇に転じた。
短期サイクルは、実績の変動のうち超長期・長期・中期の各サイクル部分を除いた残差にあたり、概ね3~5年の周期で推移している。これは不動産需要の変化に対し、売買契約や賃貸契約の締結・解消までに一定期間必要という「価格調整」の特性に起因すると考えられる。個別の賃貸借契約で考えると、真のテナント需要(=マインド)が経済状況に応じ増加・減少しても、使用している不動産の量(賃貸面積等)や費用(賃料)はすぐには変化させられず、その後の契約終了日あるいは賃料更改日にあわせ段階的・遅行的に変化する。ただし複数テナントの場合や市場全体でみると、契約終了日等は分散されていることから、連続的・遅行的に変化する。さらにテナント需要→賃料→キャッシュフロー→収益還元価格というプロセスを通じ不動産価格も連続的・遅行的に変化する。実際に今回の世界同時不況の局面では、景気と不動産との連動性は高まったと言われているが、不動産価格(短期サイクル)の変化は、景気の山である2007年末から若干遅行している。

羅針盤としての4つの分析アプローチ
以上の不動産サイクル分析とその要因分析の結果によれば、不動産の構造的・本質的な変動要因およびその表象である変動要素は、1.成長力(変動要因)→総需要(変動要素)、2.成長過程→需要内容、3.開発期間→供給調整、4.契約期間→価格調整、の4つに集約・整理される。そしてこれら要因・要素の見通しを、各要素ごとに具体的な分析対象等を取り上げ、世界・国・地域・都市・エリア等の各種レベルで検討することが、不動産市場の将来見通しに必要な分析アプローチ=羅針盤と言い換えることができる。
実務的には、例えばCREの最適化等の戦略立案においては、こうした分析アプローチをもって、自らの保有不動産が属する市場を分析することになる。特に大都市の不動産ほど、都心回帰やコンパクトシティ化の潮流を受け一定の成長性および安定性が期待できることから、都市別分析の重要性がより高まるであろう。
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