コラム

vol.03 2009年9月号
モニタリング指標としての不動産DI(不動産価格動向指数)の紹介
◇株式会社 住信基礎研究所 投資調査部 研究員 肖 健

不動産市場の「今」を知る難しさ

わが国の不動産市場においては、不動産証券化商品の開発やJ-REIT市場の開設によってプレーヤーの多様化が進んでいる。特に金融危機以前には、国内外の不動産を対象としたグローバルファンドやクロスボーダー取引が増加し、またヘッジファンド等の短期投資家の増加が顕著であった。最近では不動産市場にも底打ちの期待感が強まっており、一部ヘッジファンド等では、再度投資好機を窺っている模様である。こうした不動産投資の国際化および短期化の進展が、必ずしも不動産市場に精通していないプレーヤーを中心に、市場の動向把握および短期予測に対するニーズを強めることにつながっている。

ところで最近の不動産取引の実態をみると、投資家のリスク許容度の低下により買い手の絶対数が減少すると共に、売り手側の価格引き下げが進まない結果、不動産取引が成立せず不動産価格の相場観が形成されにくい状況が続いている。加えて公表されている不動産価格指標(インデックス)についても、更新頻度が年次や半年単位のものが中心で短期動向が把握しにくく、またJ-REITの公表データに基づきIPDや不動産証券化協会が発表する月次指標についても、公表が半年以上遅れるなど実務的に使いにくい。このように国内の不動産市場の「今」を知ることは、決して容易なことではない。

本レポートでは、こうした不動産市場(価格)の動向を知るための代替手法として、収益還元的な観点において、価格形成要因として不可欠な経済指標の動向から不動産価格の動向を推計する「不動産DI(不動産価格動向指数)」を紹介する。

不動産価格と経済指標との先行・遅行関係とその要因

不動産DIの作成に当たっては、不動産価格(変動率、MUTB-CBRE不動産投資インデックス、遅行性調整済)と一定以上の連動性を有する主要経済指標(変動率、相関係数が一定以上の指標のみ)について、2002年1月~2009年7月までのデータに基づき、指標分類と先行遅行関係(タイムラグ)を分析した。不動産価格に対して、金融市場指標(株式、REIT等)や企業活動指標(設備投資、有効求人倍率等)は先行性が強く、景気・業況判断指標(各種DI、GDP等)はほぼ一致し、金利・物価指標および賃貸市場指標(賃料、空室率等)は遅行性が強い。また先行性が強い指標ほど、その後に発生する経済イベント等の不確定要素の影響が大きく相関係数は総じて低く、一方遅行性が強い指標は相関係数が高い。

なおこれら先行・遅行関係が発生する主な要因(仮説)は、1.価格要素である将来キャッシュフロー(CF)に対する先行・遅行関係、および2.指標の調整期間、の2つであると考えられる。

【不動産価格との先行・遅行関係とその要因】
不動産価格との先行・遅行関係とその要因

出所)住信基礎研究所作成

市況の段階的な変化を示す3つの不動産DIは、実務感覚と整合的

こうした不動産価格と各経済指標との先行・遅行関係に関する仮説と実証結果を踏まえ、不動産価格と一定以上の相関を有する経済指標を先行指標(概ね6~12ヶ月先行)・一致指標(概ね6ヶ月先行~6ヶ月遅行)・遅行指標(概ね6~12ヶ月遅行)の3つの指標群に分類し、指標群ごとに、各々DI(=上昇指標数/採用指標数×100)を算出した。

2002年以降の動向をみると、2002年時点では先行・一致・遅行の各DIとも総じて低水準であったものの、2003年には先行DIと一致DIが50を上回った。小泉構造改革やバブル崩壊後初めての本格的な景気回復により、株式やJ-REIT等の金融市場、企業活動、および景気・業況判断が上昇した結果である。遅行DIは2005年にようやく50を超えたが、これは金利・物価や賃貸市場など、事業環境の改善や賃貸需要の増加などに代表されるよう、景気回復が実体経済にまで及んだことを反映したものといえる。

一方金融危機の影響が現れ始めた2007年以降をみると、2007年初頭に、先行DIが悪化に転じ2007年末には0に達した。この時期、サブプライムローン問題が顕在化し、また海外での投資ファンドの破たん等を材料に、株式やJ-REITの価格調整が進んだ。証券化レンダーによるNRL等の新規融資が縮小に転じたのも2007年末である。2008年に入ると代わって一致DIが大きく下落に転じているが、ローン等による事業資金の調達が困難になる中、国内の中小ファンド運用会社や分譲マンション専業デベの破たんが相次ぎ、不動産投資マインドが急速に冷え込んだ時期と一致する。遅行DIは同年10月に天井から底に一気に落ちこんだが、リーマンショックを受け国内実体経済の悪化が決定的なものとなり、不動産賃貸需要が大きく縮小に転じた時期と重なる。

こうして振り返ると、3つの不動産DIは、関連市場で生じたイベントを段階的に織り込みつつ推移しており、金融危機後に限れば、<先行DIの下落=資金供給の変調>、<一致DIの下落=取引市場の悪化>、<遅行DIの下落=賃貸需要への波及>といった、市況悪化に対する実務感覚と一致しており、最近の6年間に限れば、不動産市場の動向や転換局面を概ね捉えられている。また先行DIの最新値をみると、半年以上最低水準であった先行DIがようやく上昇に転じており、先行期間を考慮すると、2010年頃から市況悪化がゆるやかになり、市況回復時期を探る展開が予想される。

【不動産価格と不動産DIの動向】
不動産価格と不動産DIの動向

出所)住信基礎研究所作成

不動産DIの有用性高まる

既に主要な機関投資家において不動産が投資アセットクラスとして認知されつつあり、不動産市場と経済との連動性は強まることはあっても弱まることは考えにくい。よって不動産DIの有用性も今後より高まることが期待される。また不動産市場に精通していない一般事業法人等がCREマネジメントを検討する場合にも、一般的に分かりにくい不動産市場の動向に翻弄されないよう、不動産DI等の代替指標等の利用による簡易な市場モニタリングが必要になると思われる。

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