コラム

vol.02 2009年8月号
エリアごとの需要特性からみる賃貸マンションの賃料変動
◇株式会社 住信基礎研究所 投資調査部 研究員 菅田 修

大量供給が賃料動向に与えた影響の違いは、潜在需要量の差により生じる

不動産タイプの中で、一番賃料変動幅が小さいのは賃貸マンションです。賃料の変動度合いを比較すると、オフィスや商業施設よりも小さく、賃料水準が安定的に推移してきたことがわかります。しかし、安定的に推移してきた賃貸マンション市場においても、近年賃料水準を大きく変動させる出来事がありました。それは、大量供給です。一般的には、賃貸マンションの供給量が増加すると賃料は下落すると考えられます。しかし、近年の動向をみると、大量供給が起きたことで賃料が上昇したエリアと下落したエリアとに分かれました。

下のグラフは、賃貸マンション着工戸数の増加率と賃料の変化率を比べたものです。これを見ると、大量供給が起きたことで賃料水準が上昇したエリアは、大都市圏に位置する大阪市や横浜中心部(中区・西区)でした。逆に、賃料が下落したエリアは、地方の中核都市である札幌市や仙台市、福岡市でした。どちらのエリアも、設備等が充実した比較的質の高い物件が供給された点や、これまであまり見られなかった中心部への物件供給が多かった点は共通しているものの、大量供給前後の賃料水準に違いが生じています。この違いを生んだ原因として考えられるのが、潜在需要量の差です。そこで、次に需要の違いに着目しながらエリアごとに賃料トレンドの変遷をみていきます。

【着工戸数増加率と賃料インデックス変化率の関係】
着工戸数増加率と賃料インデックス変化率の関係

出所)国土交通省「建築着工統計調査報告」とアットホーム株式会社と住信基礎研究所が共同研究で開発した「マンション賃料インデックス」をもとに住信基礎研究所作成
注1)賃貸マンション着工戸数増加率とは1998年から2002年までの賃貸マンション着工戸数を合算した値と2003年から2007年までの賃貸マンション着工戸数を合算した値の変化率のこと。
注2)賃料インデックス変化率とは、アットホーム株式会社の成約事例をもとに住信基礎研究所で算出した「マンション賃料インデックス」の2002年第4四半期と2008年第2四半期の変化率のこと。

エリアによって賃料トレンドが異なるのは、賃料負担力の高い層のボリュームに差があることが一因

下のグラフは、エリアごとのマンション賃料インデックスについて、2002年第4四半期~2008年第4四半期までの動きを簡略化してトレンド化したものです。この期間に、大量供給と景気後退という、賃貸マンション市場にとってインパクトが大きい二つの出来事が起きています。また、ここでは、着工戸数が増加する中で賃料水準が上昇したグループを代表して大阪市の動きを、賃料水準が下落したグループを代表し仙台市の動きを示しています。

これを見ると、大量供給が始まった時期の賃料が上昇したエリアと下落したエリアに分かれています。大阪市と仙台市の賃料は2003~2006年頃まで上昇基調で推移しているのに対し、東京都心5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)と東京周辺18区(東京都心5区を除く都区部)の賃料は2003~2005年頃まで下落基調で推移しています。この違いは、大量供給前に賃貸マンションによる都心居住スタイルが確立されていたかにより生じていると考えられます。

【エリアごとの賃料水準の変遷】

出所)住信基礎研究所
注)「マンション賃料インデックス」の詳細は、弊社HPを参照のこと。

大阪市の賃料推移をみると、2007年頃までは賃料水準が上昇して、その後下落に転じています。しかし、2002年第4四半期と比較すると賃料水準が高い位置にあります。賃料が上昇した理由として、これまで賃貸マンションによる都心居住スタイルが確立されていなかった状況下で比較的良質な物件が中心部に供給されたことや、賃料負担力が高い潜在需要層が一定程度存在していたこと、周辺部などからの吸引も含め供給量と見合った量の需要量を確保できたことが挙げられます。また、賃料が下落した理由は、景気悪化の影響を受け転勤者が減少したことなどにより新規需要が減少し、供給過剰感が出てきているためです。

仙台市の賃料推移をみると、これまで賃貸マンションによる都心居住スタイルが確立されていなかった状況下で比較的良質な物件が中心部に供給されたことで賃料は一時的に上昇しましたが、2006年には早くもピークを迎えています。その理由として、賃料負担力が高い潜在需要層が限定的で、需給バランスが大きく崩れたためと考えられます。

東京都心5区の賃料推移を見ると、賃貸マンションによる都心居住スタイルが既に確立している状況下で他のエリアより早いタイミングで大量供給が行われたため2005年頃まで下落基調で推移してきました。その後、好調な景気に支えられたことや、地価の上昇により供給量が抑制されたことにより、2008年第2四半期までは上昇基調で推移しました。しかし、2008年9月以降の急速な景気の落ち込みを受け、再び下落へ転じています。その理由として、東京都心5区は外資系金融機関勤務者や中小企業経営者等の法人契約が多いため、景気悪化の影響を受けやすく需要量が大きく減少したためと考えられます。

東京周辺18区の賃料推移を見ると、2008年年第2四半期までは東京都心5区と同様のトレンドを描いていることがみてとれます。しかし、その変動幅は東京都心5区よりも小さく、安定的に賃料水準が推移しています。その理由として、実需層が中心であるため需要量に大きな変化が生じにくいことなどがあげられます。また、景気悪化後も賃料水準はほぼ横ばいで推移しています。これは、賃料水準の高い東京都心5区から移転してくる動きもあり、需要が堅調に推移しているためだと考えられます。

各エリアとも大量供給や景気後退など共通の環境変化を受けていますが、潜在需要量や賃料負担力の高い層のボリュームなどの需要特性が異なることや、大量供給以前に賃貸マンションによる都心居住スタイルが確立されていたかにより、賃料動向は異なったものとなりました。良質な物件が大量に供給されたことにより、潜在需要の中のかなりの部分が顕在化していると考えられるため、今後は物件供給による賃料押し上げ効果が期待しにくい状況にあるといえます。そのため、今後の賃料を考える上で、こうしたエリアごとの需要特性を的確に把握することが重要だと考えられます。

賃料推移

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