コラム

vol.01 2009年7月号
賃貸オフィス市場の変動メカニズムから見た市場見通し
◇株式会社 住信基礎研究所 投資調査部 上席主任研究員 坂本 雅昭

賃貸オフィス市場の変動メカニズム

賃貸オフィスの需給バランスを表す代表的な指標として空室率が挙げられる。空室率は、「貸室総面積に占める空室面積の割合」のことであり、空室率が高いほど需給バランスが悪い状況を示す。全国的に、空室率は2003年頃から低下を続けてきたが、2007年頃には上昇に転じ、足元でも依然上昇が続いている。このような空室率の変動は、一体、何によりもたらされているのであろうか。

空室率は需給ギャップであり、言葉の通り、総需要(=稼働床面積)と総供給(=貸室総面積)の動向により決まるものである。一般的に、総需要は賃料動向にも左右されるが、主に経済の成長に合わせて成長する。経済が成長している時期には、企業は業容の拡大に伴ってオフィスの利用床面積を増やすためである。

過去の変動を見ると、総需要の成長と経済の成長にはタイムラグは見られず、同じ年に増減している。一方、総供給の成長は、不動産の賃貸市場や価格動向にも左右されるが、経済との関係で単純化すると、経済成長から概ね3年程度遅れる。これは、経済が成長している時期に、デベロッパーがオフィス開発プロジェクトに着手しても、完成する(=実際に供給される)までに3年程度かかるためである。

つまり、経済の成長を受けて総需要が成長するまでの期間と、総供給が成長するまでの期間の違いが需給ギャップを拡大・縮小させる大きな要因であり、これが空室率のサイクルとなっているのである。これを表したのが下図である。仮に、総供給が総需要のように経済とタイムラグなく成長していれば、空室率(需給ギャップ)はほぼ一定となる。近年、建設技術が向上し、建設期間は縮小傾向にあるが、一方で規制緩和等によりビル規模は大規模化しているため、総供給と経済成長のタイムラグは飛躍的には縮小していない。不動産開発という行為が、時間を要する行為である限り、空室率はサイクリカルに変動するのである。

【オフィス賃貸市場のサイクル構造】
オフィス賃貸市場のサイクル構造

出所)住信基礎研究所
注1)総需要量、総供給量、空室率の数値はモデルとしての設定値
注2)経済のサイクル期間は時期により異なるが、ここでは5年と設定

大量供給と需要減少がもたらす都市間格差の拡大

このようなオフィス賃貸市場の変動メカニズムを踏まえると、今後の市場動向を見通すことができる。まず需要であるが、2009年はサブプライムローン問題に端を発した景気後退により企業収益が大きく落ち込むことから、企業は雇用の縮小とオフィスコストの削減に動き、総需要は大幅に減少すると予想される。一方、総供給については、2009の3年前、つまり2006年の好景気を受けて計画された開発プロジェクトが次々と竣工し、東京を除き大幅に増加する見通しである。つまり、過去にないような大量供給と需要減少が同時に発生し、空室率が大幅に上昇すると予想される。

その後、景気は底を打つものの、2010年に顕著な回復は期待できず、ゼロ成長に近い状況になると見られる。そのため、2010年も総需要の大幅な増加は考えづらい。一方、総供給については、2010年の3年前、つまり2007年がまだ景気拡大期であったため、2010年も一定程度増加すると予想される。つまり、総需要の大幅な落ち込みは回避されるものの、総供給の伸びが総需要の伸びを上回り、2009年に続いて空室率は上昇すると予想される。空室率が低下に向かうのは、新規供給が抑制に向かう2011年以降と予想される。

過去を振り返ると、1997年頃までは、東京の空室率は地方都市よりも高い傾向にあった。しかし、その後、東京の不動産コスト(賃料)が低下し、また企業に国際競争力の強化が求められる中で東京への業務機能の集中が進み、1997年以降は東京の空室率が地方都市よりも低く推移してきた。このような東京と地方に見られる空室率の都市間格差は、2009年の稀に見る大量供給と需要減少の同時発生を通じて一層拡大する見通しである。これは地方都市の方が、大量供給傾向が強く、需要に弱さが見られるためである。地方都市の空室率の高さは過去にない水準となり、新規供給の抑制が続いたとしても、需給ギャップを縮小するには長い時間を要すると考えられる。このような賃貸市場の動向は不動産価格に大きな影響を与え、一般事業法人の不動産戦略に影響を及ぼすものと考えられる。

【主要都市の空室率の推移と今後の見通し】
主要都市の空室率の推移と今後の見通し

出所)2008年以前はシービー・リチャードエリス総合研究所による実績値、2009年以降は住信基礎研究所による見通し
注)見通しは、住信基礎研究所「マーケットリサーチレポート(調査時点:2009年3月時点)」の具体的な予測結果をトレンドとして表現している

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