コラム

vol.32 2012年2月号

「サステナブル不動産」が創造する価値とは

環境不動産市場形成に向けた動きは着実に進んでいる

地球温暖化対策の一環として環境規制が厳格化されるに伴い、企業にとって環境対策のあり方は、CSRの推進上重要な経営戦略のひとつとなっている。その中で、環境意識が高い企業や投資家は、環境不動産市場形成への自主的な取組を進めている。例えば、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP-FI)が2006年に策定した責任不動産投資原則(RPI;Responsible Property Investing)には、国内外700超の投資家、金融機関が署名しており、ESG(Environment, Social, Corporate Governance)を投資の意思決定と資産保有に組み入れるとしている。海外では、ビルオーナーが連携して保有ビルのCO2排出量情報を共有し、インデックスを作成するなどの取組や、環境不動産を投資対象としたファンドの組成などが行われている。
一方、我が国では、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)マーケット普及版の検討をはじめ、日本政策投資銀行や三井住友銀行など複数の金融機関が、不動産の環境認証制度を創設するなどの動きが見られる。また、国土交通省では、環境不動産フォーラムや環境不動産懇談会を実施するとともに、環境不動産ポータルサイトを通じて情報提供を行い、環境不動産市場の形成を支援している。このように、環境不動産市場形成に向けた動きは着実に進んでいる。

東日本大震災を契機に「安全・安心」の重要性を再認識

さらに、2011年3月11日に発生した東日本大震災を契機に「安全・安心」に対する重要性が再認識された。住信基礎研究所が、都心6区に本社がある企業を対象に実施したアンケートでは、本社移転先のビル選定時に重視するビル条件として、「賃料水準」「最寄駅までの距離」に次いで「耐震性能(免震、制振、非常用電源)」が支持された(図表1)。震災発生後約3ヶ月で実施した調査であるため、通常よりも耐震性能への支持が強まったことは否めないものの、「専用部の基本スペック」や「セキュリティシステム」、「ビルの規模(延床面積、フロア面積)」よりも上位となったことは特筆される。

【図表1.東京本社オフィスの移転先ビルの選定において重視するビル条件】
【図表1.需給曲線のシフトによる交点のサイクル変動(イメージ図)】

出所)住信基礎研究所「企業のオフィス動向に関する調査(2011.9.5公表)」をもとに作成
調査対象 :東京都心6区に本社のある資本金3億円以上の企業及び東京都心6区に東京支店のある従業員20名以上の外国企業
調査期間 : 2011年6月1日~2011年6月24日
回収率 : 4.9% (回答225社 / 発送4,586社)
http://www.stbri.co.jp/file/pdf/report/report_20110905.pdf

環境不動産に「安全・安心」の要素が加わる

このような状況から、今回の震災を教訓として、環境不動産に「安全・安心」の要素を加えた「サステナブル不動産」という概念が、より強く意識されるようになった。すなわち、建築物は環境性能のみならず、耐震性能、立地に係る災害発生リスク(浸水、津波、液状化等)及び対策実施状況、BCP(事業継続計画)に係る適切なマネジメント方針の策定などの諸要素が「サステナブル不動産」を構成する重要なファクターとして再認識されたのである。
そもそもサステナビリティとは、「持続可能性、または持続できること」を意味する。一般的な「サステナビリティ」の概念では、「環境」「社会」「経済」のいわゆるトリプルボトムラインの調和が重要とされている。このトリプルボトムラインの調和を勘案してサステナブル不動産を定義すると、「サステナブル不動産とは、優れた環境設備性能や、防災管理体制の策定などを通じて環境価値、社会的価値を創造するとともに、中長期的に資産価値の維持・向上が期待される不動産」となる。従って、「環境」「社会」「経済」の調和を勘案した「サステナブル不動産」は、「環境不動産」よりも高次の概念となる。

ステークホルダーにより「サステナブル不動産」に期待する効果は異なる

この「サステナブル不動産」のストックを拡大するためには、ビルオーナー、テナント、レンダーなど各ステークホルダーの積極的な取組が必要となるが、ステークホルダーにより「サステナブル不動産」に期待する効果はそれぞれ異なる。
まず、ビルオーナーは、「サステナブル不動産」の建設・運営を通じて、中長期の安定インカム(賃料水準や稼働率の維持)、ランニングコストの低減などを期待する。そのために、省エネルギー対策(低燃費仕様、省エネ管理体制)、耐震性能強化などを行い、テナント満足度の維持や資産価値の維持に努める。また、ビルオーナーは、将来の環境規制を見越した対応策を講じることで、保有物件の競争力維持をも期待していると考えられる。
一方、テナントは、「サステナブル不動産」への入居を通じて、高いサービス性能や良好な室内環境、非常時における事業継続性の確保などを期待する。さらにテナントが改正省エネ法の特定事業者である場合には、エネルギー消費量削減のために、エネルギー効率が優れたテナントビルを志向することも想定される。
これに対し、レンダーは、市場で「サステナブル不動産」自体の価値が形成されることによる、担保価値の維持・向上を期待する。この点でレンダーは、当該不動産を建設・運営するビルオーナーや、直接その恩恵を受けるテナントとは「サステナブル不動産」を構成する要素の捉え方が異なる。(図表2)

【図表2.「サステナブル不動産」の主な構成要素と期待される効果】
【図表2.「サステナブル不動産」の主な構成要素と期待される効果】

出所)住信基礎研究所

「サステナブル不動産」が創造する価値とは

このように、それぞれのステークホルダーにより、「安定インカム」「ランニングコスト低減」「快適性・生産性向上による事業収益拡大」「担保価値の維持・向上」など期待する効果は異なるものの、共通して「サステナブル不動産」に「経済的価値」の創造を期待していることがわかる。すなわち、「サステナブル不動産」が持つ高い環境性能や「安全・安心」への取組、良好な室内環境、適切なビルマネジメントなどが不動産の競争力を高め、資産価値を中長期的に維持することに繋がると期待しているのである。
元来、環境対策や平時の防災管理マネジメントは、経営上コスト要因と考えられてきた。そのため、法令上求められる最低限の機能や運営でよしとするビルオーナーも決して少なくはない。しかし、今後環境規制が厳格化することはあっても、緩和されることはない。また、震災を経て、平時における災害発生リスクへの対策が如何に重要であるかを、我々は痛感した。
今回の震災を契機に、「サステナブル不動産」のニーズは急速に拡大することが見込まれる。その時、「サステナブル不動産」のストック拡大に積極的に取組むステークホルダーは、上記に掲げた経済的価値を創造することが出来るであろう。さらに「サステナブル不動産」は、地球環境の負荷低減や、地域の防災強化など様々な効用をもたらし、持続可能な社会の実現という社会的価値を創造するであろう。そして、「サステナブル不動産」を通じて経済的価値、社会的価値を創造した企業は、自らの新たな企業価値をも創造することが出来るであろう。

(作成:株式会社住信基礎研究所 研究統括部 兼 投資調査第1部 主任研究員 菊地 暁)

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